風の陣

風の陣 [立志篇](PHP文庫)


「火怨」の高橋克彦の小説
時代は、「火怨」のおよそ一世代前
蝦夷の土地、陸奥小田郡で見つけた砂金を
丸子宮足が朝廷に献上したところから物語が始められる。


大仏建立のために「黄金」を喉から手がでるほど欲する朝廷は
陸奥への支配強化を虎視眈々と狙う。
一方、東北を支配する蝦夷達は
朝廷に取り入って栄達しようとする一族があれば、
朝廷の横暴から蝦夷を守ろうとする一族もあり
「黄金」をきっかけとに陸奥の地は、にわかに騒擾となる。


蝦夷でありながら朝廷に出仕している丸子嶋足は、
朝廷での内紛に関わり、これを排除した功により
蝦夷としては異例の出世を果たす。
それは嶋足の剣術もさることながら、朝廷で彼に権力を握らせ
陸奥の地を安泰のものにしたい物部天鈴が奔走した結果でもあった。


作中で、民心を穏やかにならしめるための大仏建立が、
蝦夷の民を虐げ苦しめるという大いなる矛盾が描かれているが
自己の矛盾や民心の安定などは二の次で
功績や地位を尊ぶ為政者がいるのは、
何時の時代も変わらないものかもしれない。


やや的を外れな感想であるが
己の身を守ろうというならば、
自らの手で、という気概と
如何なる手段も選ばぬという覚悟が必要。
いつの時代にも政治には徹底したマキャベリズムが有効なのかも知れない。