再起


再起 (ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 1-41)


ひさびさのディック・フランシス
元ジョッキーにして探偵、隻腕のシッド・ハレー四度登場
この一冊は、長い久闊を除するに十分値する作品である。
心の支えであった妻を失い、
執筆の意欲を失った作者が復活に選んだ主人公はシッドハレー。



栄光のチャンピオン・ジョッキーから負傷して
飲んだくれの厄介者に転落、
そして復活を遂げた酸いも甘いも噛み分けた
挫折を知る不屈のヒーロー
彼が再起にあたり、物語の主人公に彼を選んだとしても何の不思議もない
むしろ、彼こそがフランシスの再起の主人公に相応しい。



悪人は、ハレーを痛めつけても
全く効果がないことを知り尽くし
彼の信念を揺るがすために、彼の大事な人間を標的に選ぶー
それでもハレーはハレーたり得るか。
推測ではあるが、これは作者のフランシス自身を
作品に投影された姿たろう。
人生において大事なパートナーを失ったとき
その存在が大きければ、大きいほど、傷は深い。
そうした苦渋を乗り越えることが、この物語の根底にあるように
感じた。


翻訳者が今回から変更となったが
独特の乾いたクールな文体は変わらず、
なんら違和感なく、フランシスの世界に没入することができた。
競馬シリーズ、久々の快心作といっていいだろう。