のぼうの城


のぼうの城

強き者が強きを呼んで果てしなく強さを増していく一方で、
弱き者は際限なく虐げられ、踏みつけにされ、
一片の誇りを持つことさえも許されない。
小才のきく者だけがくるくると回る頭でうまく立ち回り、
人がましい顔で幅をきかす。
ならば無能で、人が良く、愚直なだけが取り柄の者は、
踏み台となったまま死ねというのか。
それが世の習いと申すなら、このわしは許さん


領民から、"のぼう様"と呼ばれた成田長親は
戦国末期、豊臣の小田原攻めの際、城主不在のため
武州忍城おしじょうの城代として
攻め入ろうとする石田三成と和戦の交渉に臨む。


使者の口上に腹を立てた"のぼう"は、
降伏やむなしとの合議を一人でひっくり返し、抗戦を決める。
兵二万以上の三成方に対して、成田には1千足らず。
戦わずも勝敗は明らかに思われた戦いに
領民は、望んで城にはせ参じた。
それは、耕地を守るためでもなく
領主を慕ったわけでもなく
"のぼう様がやるっていうんじゃ仕方ねぇ"と
だだっ子の我が儘につきあうかのようにである。




勇者ではなく、智に長けた者でもなく
凡人以下の男が将となった成田方は
予想外の力を発揮し、三成軍を跳ね返すー。


でくのぼうと蔑まれながらも、
領民を愛し、領民に愛された男の生き様を描いた
ファンタジーにも似た戦国記
痛快無比の一言である。