世界最速のインディアン


1960年代のアメリカ、ユタ州ボンネヴィルで
1920年に製造されたバイク「インディアン」を駆って
世界最速に挑戦した老人の夢物語。


主人公バート・マンローは、ニュージーランドはインバカーギルに住む。
40年前に購入したインディアン・スカウトをこつこつと改造するのが
年金生活者である彼の唯一の趣味にして生活。
事実彼は、水道もない狭いガレージに住み、隣人から変人扱いだった。
そんな彼の夢は、資金を貯めてアメリカに渡りボンネビィルのソルトフラットで
世界最高速記録を樹立すること。
だが資金は思うように集まらず、1年間計画を先延ばししようした矢先
狭心症で倒れ、バイクは降りるようにと医師から勧告される。


彼は、残された時間が少ないことを自覚すると
自宅の土地を抵当に入れて銀行から融資を受け
「夢を追わない人間は野菜と同じだ」と
隣人の少年に言い残しアメリカに渡る。
しかし、アメリカに渡るものの物価高や生活習慣の違いから
あらゆる場面で困難に直面する。
それでも何とかボンネヴィルので辿りついたものの
事前に登録していない彼は走ることができないとオフィシャルから言われ
挙げ句の果てに、マシンは時代遅れと酷評されてしまう。
地球を半周して夢の地に立った彼は、夢を叶えることはできないのかー。


とにかく面白い。
アンソニー・ホプキンス演じるバート・マンローがイカしている。
例えば朝の四時にバイクのエンジンを掛けて近所から文句を言われたり
庭の草を刈れと言われたらガソリンをかけて燃やして消防車を呼ばれたり
ティーンエージャーの暴走族と競争したり
アメリカでは車を値切った挙げ句バイクを運ぶトレーラーを自作するから
工場を使わせろと駄々をこねたり
大会参加は知らなかったーでも走らせろと詰め寄ったり
タイヤのトレッドを削った自製スリックタイヤに
古くてヒビが入ってるとクレームがついたら靴墨を塗って新しくみせかけたり
走るには年齢オーバーだと言われたら「皺はあるが心は18歳だ」と言い返し
パラシュートや消火器をマシンに装備すりのが当たり前となっていたのに
そんなものはいらないと言い張るー凡そバイクのこと以外はどうしようもない
素っ頓狂な穀潰しの老人なのだが、何故か憎めない。


文句を言いながらも「仕方ねぇ何とかしてやるか」と気分にさせられてしまう。
そういうおおらかで愛すべき老人の雰囲気をホプキンスは上手く醸し出しており
一見滑稽無糖と思われる筋書きにある種の説得力を持たせていた。
だから、この映画を見た人間はバート・マンローが困難な場面に出会うと
「そんなこと言うなよ。何とかしてやれよ」と言いたくなってしまうのだ。
実存したバート・マンローもそういうオヤジだったのかも知れない。


そんな不良老人だがセリフの一つ一つに重みがあり
人生の酸いも甘いも噛み分けた人間とはこんなものかと
思わせる場面がしばしばあり、
また何気ない彼の動作一つ一つが神聖な儀式のように感じられ、
ホロリとさせられてしまった。


人生を楽しむのは条件や環境でなく心の持ちようであるー
と諭す気はさらさらないだろうが、
生まれてきたからには人生は楽しまなきゃ損だぜ、くらいのことは
言っていると思う。
モータースポーツ愛する人間なら見て損はない映画である。

バート・マンロー スピードの神に恋した男

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