ローマ人の物語27、28

ローマ人の物語〈27〉すべての道はローマに通ず〈上〉 (新潮文庫)ローマ人の物語〈28〉すべての道はローマに通ず〈下〉 (新潮文庫)

現代でも先進国ならば道路も鉄道も完備しているので、われわれはインフラの重要性を忘れて暮らしていける。だが、他の国々ではそこまでは期待できないので、かえってインフラの重要性を思い知らされる。水も、世界中ではいまだに多くの国で充分に与えられていないのが現状だ。
経済に余裕がないからか。
インフラ整備を不可欠と思う、考え方が欠けているのだろうか。
それともそれを実行するための、強い政治意志が欠けているからか。
それともそれとも。「平和パクス」の存続が許されていなからであろうか。


塩野女史は、「ローマ人の物語」で為政者を中心に
ローマ帝国の歴史を年代順につづっていたが
この2巻は制作年の新旧関係なしにローマ人が築いたインフラだけを語っている。
従って心躍るような冒険譚や戦闘場面、表裏二面にわたる陰湿な権謀術数の世界は
この二冊には登場しない。
さながら歴史のコーヒーブレークとでも云うところか。
この2巻でとりあげた主なものはハードなインフラとして道路と水道
ソフトなインフラとして医療と教育で
ローマ帝国繁栄の基盤が何であるかを標し、
証すことを目的としているような印象を受けた。


同時代に道路を整備したのは、ローマ帝国だけではなかったが
道路を張り巡らしネットワークとして活用したのはローマ帝国だけだった。
作者はローマ街道を現代の高速道路に比喩することが多いが
ローマ街道に付随した施設の解説を読めばなるほど得心がいく。
そして何より産業革命後、鉄道が普及するまで
ローマ街道を走る馬車が最速の交通機関でだったというから驚きである。


そうしたこもさることながら感心させられることは
こうした"高速道路"を作りながら、通行料は全くとらなかったことだ。
ローマの各都市は自由に通行できる街道によって結ばれることによって
軍事的な安全保障を可能にならしめたばかりでなく
経済的に発展することができた。
ローマを治めた為政者達は、道路を作ることが責務であるかのように
道を作り続けた。
インフラを整備することが、新たな需要や雇用を産むことを
ローマの歴代為政者は本質的に理解していたのだろう。


翻って、現代を見た場合、
景気を良くするために公共工事と称し税金を投入し、
国庫の状況を悪化させるだけに終わる例がままあるが
それは、必要されるインフラが何か、
インフラの何たるかを理解できないていないのか
それとも政治主導のインフラがもはや必要とされていないのか。
それにしても答えが見えない特定道路財源問題が喧しい今日この頃である。