極道作家との異名をもとる浅田次郎は、
長らく彼の商売敵であった警察について
色々と著作で記している。
曰く、ベテランの刑事が犯人だと言ったら
証拠があろうがなかろうがクロだ、と。
刑事がイヌと呼ばれるのは
疑わしきは罰せずとか情状酌量などと格好のいいことをほざいて
真っ黒な人間を見逃してしまう世間知らずの裁判官とは違う
鍛え上げられた一種独特の"嗅覚"ともいうべき異能を
刑事という人種が備えているせいかも知れない。
オビに横山文学の最高傑作と打たれた「第三の時効」は
そうしたイヌの、どう猛なドーベルマン達の物語である。
F県県警の3つの班に分かれた捜査課のイヌたちが、
それぞれが身につけた独特の嗅覚をもとにキバを剥き犯人を追い詰めるのだが
時には身内である仲間に対しても容赦なく、脱落する人間が弱いだけとばかり
生の感情を丸出しでぶかりあう。
だが、"こいつだけは許しちゃいけねえ"とイヌたちの心の何かが囁き
あらゆる手練手管を使って、ホンボシを追い詰めていく様には
ある種の喝采を送らずにはいれない。
思うに犯罪とは、
人が人を愛するにはあまりにも弱過ぎるということの証ではないだろうか、
そんな素っ頓狂な感想をもってしまうほど
この短編集はその様は時に小気味よく、時にせつなくなるほど痛い結末が
それぞれに用意されている。
オチが弱いと批判されることの多い横山作品だが、
この短編集はケチのつけようがない。
極道放浪記〈1〉殺られてたまるか! (幻冬舎アウトロー文庫)
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