職場で産経新聞のページをめくっていると
「クール*1な奴はジャズが好き」という何やら挑発的なタイトルが
目に飛び込んできた。
それは、隅田川をハドソン川にたとえ永代橋から眺める佃島をリトルNYと呼び
トランクに真空管のアンプを積んでジャズのCDを聞く
安西さんという個人タクシーの運転手の紹介記事だった。
・・・・・・ 世の中には隠れたジャズファンが多い。 大手町で乗せた中年商社マンは、マイルス・デービスのトランペットに泣き出した。 聞けば、学生時代、どうしても欲しかったレコードを買ったけど プレーヤーが買えない。その無念さがよみがって、つい涙がこぼれた。 新宿では、悪相の三人組が乗ってきた。 助手席のチンピラが「音を消せ」と毒づいた。 すると、後の兄貴分が慇懃に、 「運転手さん、これコルトレーンでしょ。音量あげてください」と訂正した。 「この曲は17分かかりますから、少し遠回りして下さいな」と付け加えたものだ。 ビシッと三つぞろいで決めた検事が乗ってきて ステレオを聴くなり豹変したことがあった。 ネクタイを緩め、指を鳴らしリズムに体をゆすった。 車を降りるときには、またビシッと最初の検事バージョンに戻ったことが可笑しい。 「ヤクザも検事も、クールな人ほど黒人臭の強い、 濃密なファンキー・ジャズが好きなんだ。」 小田原からたまにやってくる客は、「ジャズにはバーボンだよな」と、 持ち込んだボックスからグラスと氷を持ち出してくる。 夜景を見ながら、持参のCDで聞くジャズがたまらないらしい。 70過ぎの紳士が、癌研究所から退院する時は辛かった。 どこで聞いたか、「ジャズタクシーで帰りたい」と予約を入れてきた。 リクエストは、亡き人を偲ぶマル・ウォルドロンの「オンリー・アローン」*2だった。 哀愁おびたピアノの旋律がもの悲しい。横浜の自宅に着き、 「いや、最高のライブでした」と言われたときに、思わず涙がこぼれた。 息子さんから、彼の死が伝えられたのは三週間後である。 確かに人生いろいろ、悲喜こもごも。 車の中でプロポーズする若者があれば、死出の旅に出る人もいる。 でもジャズを介してどこかでつながっているような気がする。 ・・・・・・・安西さんはもきょうも、クールを乗せて都会の夜を走っている。 産經新聞 平成17年1月14日朝刊 「東京特派員」湯浅博
プロポーズも死出の旅も当分縁がないが
今日は秘蔵のジャズメン*3にレフトアローンでも演奏ってもらおうかと
クールというには、ちょっと血が熱すぎる中年はひとりごちる。