作家の北原亞以子が、ビルマ派遣軍で従軍中に
死亡した父より送られた絵手紙を中心に、
彼女が戦争中に日本で体験した出来事を中心に振り返るエッセイ集。
北原の父は彼女が4歳の時に徴兵されて南方へ赴き
二度と故国へ帰らぬ身となる。
まめに家族へ手紙を送ってきたことからも
おそらく子煩悩で家族思いであった人物であろうことは
容易に想像がつく。
実父の死去、左前になっていく稼業、男児の誕生と死を
手の届かぬ戦地で聞かされ、敵弾に倒れた者の無念さは
いかばかりのものがあっただろうか。
北原自身は、おぼろげな記憶と絵手紙で父を語ろうとするのだが
なにぶんにも幼い頃の記憶であり
何か薄い膜に包まれたような父親像しかみえてこない。
端的に言えば、どこか他人ごとのような印象を受ける。
逆に言えば、それがあどけない子供から父親を奪った戦争の
むごたらしさの証でもある。
戦地で亡くなられた方の悲しみや寂しさについて
妻をめとり、子を持つ身になって初めて理解できることがままある。
個人的なことではあるが、家庭をもつまで自分が
半人前であったことに今更ながら気づくことが多い。
誠に汗顔の至りである。
家族を残して死地に旅立たれた方々の胸中に
已むに已まれぬ大和魂の魂魄をいだいていたとしても
故郷や家族への思いはとめらなかったであろう。
彼の悲しさにやるせなさを感じる。
彼らの偉大さに感謝しつつ、頭を垂れ冥福を祈るより
術がない無力の腕を恥じる。