ローマ人の物語


ローマ人の物語〈34〉迷走する帝国〈下〉 (新潮文庫 し 12-84)
ローマ人の物語〈33〉迷走する帝国〈中〉 (新潮文庫 (し-12-83))
ローマ人の物語〈32〉迷走する帝国〈上〉 (新潮文庫 し 12-82)











ローマ帝国が蛮族の侵入などによって
徐々に衰退していく3世紀の様子が描かれていた。
たとえ無能な者が皇帝となっても
びくともしなかった帝国が、
皇帝の失策、その他で大きくその力を弱めた。





税収を向上させ国家財政を改善するためか、
皇帝カラカラは、ローマ市民、属州民の区別を撤廃し
奴隷をのぞく全ての国民を権利が享受できるローマ市民とした。


全ての人間に同等の権利を与えるというのは
当時として画期的なことではあるが
これがローマ帝国の国力を大きく殺いでしまう。
税収のシステムを混乱させただけで、
殆ど収支の改善に役立たなかったうえに
市民になって得られる権利を既得権にしてしまったことで
階級毎の市民の義務や社会に対する奉仕の精神を希薄にしてしまった。


苦労して手に入れた権利ならば、人は大切に使いもしようが
初めから誰にも与えられれば、その価値を理解もせず、行使もしない。
この身分の撤廃は、国民の向上意欲を奪い
人々の生活からダイナミズムを消失させ
帝国に長期に低迷をもたらし、支える土台をゆっくりと蝕んでいく。



また政治の混迷が人々の心に影を落としたことも見逃せない。
政権が交代するたびに、方針が変更され、事業が中断し
多くのロスが生まれる。
そしてその空白を許さないほど帝国の状況は逼迫していたにも関わらず
瑕疵というにはあまりに些細な出来事で、
皇帝が暗殺、失脚してしまう。


図らずも、政権がコロコロ変わる今の日本に似ていなくもない状況が展開されている。