陸上攻撃

日大の元監督篠竹氏は
アメフトのパス攻撃をエアフォース(空軍)、
ラン攻撃をアーミー(陸軍)と比喩したことがある。
氏に限らずフットボールを戦争に準え
地上戦、空中戦と喩える指導者や解説者は多い。
アメフトというスポーツの特性である局面ごとに作戦を考え伝達し、
ケガのリスクを冒しても身体を張ってプレーする激しいスタイルや前方へのロングバスが
そうした比喩を多用する理由になっているのだろう。


空軍や陸軍に比喩したことを特に秀逸だと感じるのは
陸上における戦車や歩兵よりも短い時間で広域の戦闘を
効率よく進められるミサイルや航空機などの航空兵力の特性や
どんなに航空優勢を獲得しようとも最終的に勝利を確定するのは陸上兵力であるという点が
フットボールにおけるパス攻撃とラン攻撃の関係に極めて類似している点である。
そうパス攻撃で優位に立とうとも、ラン攻撃で止めを刺さない限り勝利を確定できないことが
フットボールにおいて、ままある。


例えば、1991年第25回スーパーボウルBUFビルズvsNYジャイアンツ戦
序盤においてビルズのオフェンスは圧倒的にゲームを支配していたにも関わらず
QBジム・ケリーのパスを中心としたビルズのハイパーオフェンスは
ジャイアンツRBオーティス・アンダーソンのラン攻撃によってひっくり返されてしまった
この他にもラン攻撃で劣勢の試合を逆転したゲームは枚挙にいとまがない。


デニス・グリーンが率いていた90年代後半のMINバイキングスは
レイオフの常連チームだったが
ジェフ・ジョージ、ランドール・カニンガム、ダンテ・カルペッパーと
毎年のようにQBが変わってもミネソタはプレイオフに進出していた。
これはデニス・グリーンの攻撃システムが素晴らしかったこともあるが
RBのロバート・スミスの存在が大きかった。
事実、RBロバートスミスが引退したとたんに、バイキングスは低迷期に突入した。
TENタイタンズはFBのニールを放出したために、RBであるエディジョージが不振に陥り
QBマクネアといえども如何ともしがたく、そのシーズンはチームそのものが沈んだ。
去年のマイアミは、RBリッキー・アンダーソンの開幕直前の突然の引退で攻撃陣が混乱し
マリーノの引退直後ですら負け越さなかった同チームが、
十数年ぶりに負け越すという憂き目にあっている。
これらはチームのオフェンスのシステムにも依るところが大きいが
ラン攻撃なくして勝利があり得ないことの証左と言えるだろう。
特に平均以上のRBがチームの攻撃を支えていた場合、
その穴を埋めるのは並大抵のことではない。


1915年、陸軍士官学校ノートルダム大学の戦いにおいて
力で劣ったノートルダムフォワードパスという奇策で陸軍士官学校を圧倒して以来、
パス攻撃は弱いチームが強いチームと互角に戦うための戦法として普及した。
日本でも日大が体格で劣るアメリカ人を相手に勝つために
パスを重視したショットガンフォーメーションを採用したのがパス攻撃の走りだった。
時代は流れ、パスは弱いチームが強いチームに対抗するための手段から
より普遍的な攻撃方法となり近代フットボールの主役として位置づけられるようになり
どんなチームでも、パス攻撃ありきでチーム作りが行われるようになった。
だが戦術が進化しようともフットボールがコンタクトスポーツである限り、
ある程度ラン攻撃を進めることのできないチームに勝利はなかった。
それは、航空兵力が陸上兵力を圧倒し、戦いの大きなな部分を占めようとも
陸上兵力抜きでは勝利がおぼつない戦争にやはりどこか似ている。



以上、ミリタリーマニアのなんちゃってフットボーラーの独り言である。