ドイツ軍に協力した女性


数年前に亡くなられた作家の児島譲氏によると
WW2ドイツ軍によってパリが陥落した直後のフランスは
ほぼ親ナチス一色で塗りつぶされて、ナチスドイツを賞賛する声が
ちまたに溢れ自らフランスを貶めること甚だしかったそうだ。
曰く「フランスが、負けて良かった。」
曰く「ヨーロッパはヒトラーによって欧州が平和になる。」等々
何やら、どこぞの国のポチ保守や反動勢力のような意見が大勢を占めていたが
連合軍がパリを解放するとそうした声は当たり前のように一掃された。
右の写真は、ドイツ軍占領下のフランスで
ドイツ軍兵士と懇意になった民間人の女性が
パリ解放後、街中の人間から嘲笑と侮蔑の視線を受けた状況を
刻んだキャパの写真である。
大衆のこうした保身や変節を否応なく見せつける写真は
民衆の唱える正義とは、所詮、矮小な自己満足の終着点に過ぎないことを
証しているように思える。


2日に録画していたNHKのドキュメンタリー
一瞬の戦後史 スチール写真が記録した世界60年 」を見た。
ロバートキャパがWW2後に設立した写真家集団マグナムに
保管されているスティール写真を中心に
朝鮮戦争ベルリンの壁ベトナム戦争イラン革命など
大戦後のエポックメイキングな事件を語る構成だった。
番組ナレーションに、アメリカ帝国主義反対、
イデオロギーと宗教の対立反対、ジョンレノン万歳、
愛と自由が世界を救う的なお気楽、極楽思想が見え隠れし、やや鼻白んだが
数々の写真に刻まれた人々の営みや死に様は、まぎれもない現実であり
写しだされた人々の感情は、心に刺さるかのように鋭く、
百万の理屈ことぱよりも圧倒的な説得力をもって何かを訴えかけていた。


世界中で3000万人以上が死んだとされるWW2後も
共産主義自由主義イデオロギーの対立が少なくない時間続き
多くの人が巻き込まれ命を落とした。
今、その軸であった共産主義は地上から消滅しつつあるものの
新たな火種が世界各地で起こりつつある。
正義が民族や宗教の数ほどに増えた大戦後60年の人類の歩みは、
果たして進歩だったと言えるだろうか。
キャパの残した写真を見つめながら思う。


マグナム―報道写真半世紀の証言ちょっとピンぼけ (文春文庫)