2004年から中日ドラゴンズの2塁を守っていた荒木雅博は
2010年シーズン前に監督の落合から遊撃手へのコンバートを指示される。
彼と井端の二遊間は6年連続ゴールデンクラブに選ばれ
落合野球の基盤でもあったが
落合はその土台を敢えて崩すことを決める。
肩に不安を抱えていた荒木は、無理な送球を試みた結果
エラーを重ね、失策は前年の倍近い20を数えた。
近代野球において極めて重要とされるセンターライン
(捕手、投手、二遊間、中堅手)の弱体化は
チームの弱点にこそなっても長所にはなりえない筈なのだが
チームは4年ぶりの優勝を遂げている。
マイケル・ルイスの「マネーボール」において
野球のスコアの記録方法は
選手の能力を正当に評価するものではないとの記述があり
エラーの数は必ずしも守備の実力を表していないとのことだが
落合は、2010年の時点で守備を評価する独自のモノサシを
持っていたことを匂わせている。
球界の常識や経験則が幅を利かし、それが当然とされる野球界において
その常識にそぐわない方法を実践し
理由を詳らかに語らない彼のやり方は
監督になっても変わらずなかった。
明確な意図を示すこともないまま
選手に考えさせることで方針を選手に浸透させていくことに
彼の狙いがあったわけであるが
日本の球界において、その姿勢は異端としかいいようがない。
ファンやマスコミ受けする発言が少なく
観客動員に結びつかないことから
球団の首脳陣と必ずしも円満とはならなかったが
グラウンドの勝利に徹した勝負師だったといえるだろう。