ロケット・ササキ1

ロケット・ササキ:ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正

ロケット・ササキ:ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正

  • 作者:大西 康之
  • 発売日: 2016/05/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

副題で「ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正」となっていたが
目の付け所がシャープだった早川電機が
通産省からコンピューター開発は無理と
補助金の対象から外されたリベンジとばかりに
トランジスタ製計算機の開発に乗り出し
佐々木正と愉快な仲間たちが好き勝手に突っ走る後半が
とても面白かった。
エンジニアもどきのtacaQにとって、である。

前半部分は、佐々木正の半生なのだが
簡単にかいつまんでいうと
台湾で生まれ、京都大学で弱電を研究し
それゆえ、希望とは別の川西機械製作所に引っ張られたのに
何故か反物をアフリカで売りさばき
一年後に明石で真空管の製造工場の建設にかかわり
荒くれも建築業者とのいざこざも酒を飲んで手打ちに持ち込み
真空管の製造とレーダーの研究を始めたところ
軍部からは川崎で殺人光線の研究を命じられる。

終戦後は川西から分離した神戸工業で働きながらも
GHQに呼びだされて、アメリカで品質管理と協創を学び
東京大学で物理を教えていた嵯峨野遼吉から
無力感から就職先を探しあぐねていた
変わり者たが頭の良い江崎玲於奈をもらい受ける。
当時の花形であった真空管にかわり
トランジスタの時代がくることを予見して
江崎にトランジスタの研究をさせるとももに
苦手な英語を克服させために、米国出張を押し付て
一人前の技術者として成長させる。
やがて江崎は、トランジスタに理解を示さない神戸工業に見切りをつけて
東京電機の井深大に誘われて引き抜かれる。
神戸工業にとって痛手であるものの江崎のため、
日本のためといって佐々木は江崎を快く送り出す。
その後、のちに電子レンジと呼ばれるレーダーレンジを開発し
ハヤカッタ電気と揶揄された早川電機と組んで製品化に成功する。

神戸工業がこけた後は、大学で教鞭をとろうとするも
会社が傾きかけた早川電機の専務佐々木旭から
三顧の礼ばりに出迎えられて早川に転身。
早川では電卓の開発に携わり、カシオとの熾烈な価格競争を演じる。

電卓に使うLSIの生産を依頼するため
米国のノースアメリカン・ロックウェルに赴き、
軍需だけで取り扱っていたLSI民需でも使えるように
不良品の歩どまりを減らすべきだと説教じみた提案をかます
のちにロックウェルを通じて米国の月面探査計画、
アポロ計画にも携わるようにるのだが、
突飛なアイデアを出しては周囲を驚かし
最終的に問題を解決してしまう佐々木は
いつしかロケット佐々木と呼ばれるようになった……



独創より協創ー、技術は半年で追いつかれる、
常に新しい分野の開拓が身上であった佐々木のスピリットを
今のシャープが十分の一でも受け継いでいたら
現在の体たらくはなかっただろう、と個人的に思う。