ピート・キャロルへの手紙4


「はじめまして、ジェイク・オルソンです。
トロージャンズのファンです。」


トロージャンズの練習場に立った12歳の少年は、
アメフトの防具を装着した青年らを前に
精一杯の大きな声をだした。
練習前、笑みなど決してみせないことを
躾けられた戦士達ではあるが、
12歳のファンを前に
彼らは優しげな表情を浮かべていた。
その眼差しは、親しい家族を迎えるようだった。


「ようこそ、ジェイク。
今日のトロージャンズは君のチームだ」
ピートの言葉にジェイクは驚きながらも、
顔いっぱいに喜びの色を表した。



彼は2時間あまりの練習のあいだ
選手と一緒に走り、ボールを投げ、
タックルバックにぶつかった。


ピートは、ジェイクを招待することで
トロージャンズの練習プランを
大きく変更せざるを得なかった。
1時間の練習の準備に
コーチは10時間を必要とするとも言われている。
しかし、彼は喜びを持って特別な練習計画を作り、
ジェイクを練習に参加させた。



ジェイクの心に灯をともす。
その命題は、ピートにとって
パシフィック12でチャンピオンになること、
ローズ・ボウルの勝者になることと
等しい重みを持っていた。



「僕は、今日の練習に参加できたことを
一生忘れない。トロージャンズの皆さん
ありがとう。
僕も選手の皆さんのように勇敢な人間を
目指して頑張ります。」
ピートは、ジェイクの言葉から
彼の力になれたことに満足を覚えた。



ジェイクの言葉をきいていたシンディは、
充分に勇敢な息子であると思い、
涙が零れそうになった。
間もなく光を失うであるジェイクは
周りの人間を悲しまさせないように
必要以上に明るく振る舞っていることを
彼女は知っていた。
シンディは、息子に気付かれるまえに
涙を拭い、笑顔をうかべた。
息子の記憶に悲しい顔を残してはいけない。




「いいかい、ジェイク。手術が終わったら、
ここに戻って来るんだ、必ずだ」
ピートは、ジェイクに語りかけた。
「分かった。必ず戻ってくるよ」
ジェイクは、力いっぱいの気持ちをこめて応えた。