青雲はるかに


青雲はるかに〈上〉 (集英社文庫)青雲はるかに(下) (青雲はるかに) (集英社文庫)


中国の春秋時代ー。
魏に生まれ、大望を抱きながら中華の国々を流離う范雎
かつて机を並べた旧友を訪れ
願掛けにも似た自身の将来を賭けた占いを思いつく。
足の悪い友人の妹を治すため
まとまった金を得ようと
魏の要人に使用人として雇われるのだが
この雇用が范雎の運命を大きくかえる。
旅先の斉で縁により国王と交誼したことで
宰相・魏斉によりあらぬ疑いをかけられ
充分な詮議もないまま
殴打、打擲の挙句に厠刑とよばれる屈辱的な
刑罰を与えられる。


とっさの機転で窮地を脱し
九死に一生を得た范雎は追手をかわしつつ、
多くの人物にたすけられる。
大難にあいながらも
自身の人生を賭けた占いを吉と判断した范雎は
さすらいながらも
人間としての器の大きさを広げる。


やがて秦の要人に認められ、秦に入国、
その後秦王にあてた手紙が王の眼にとまり
客卿の地位をあたえられる。
秦の政にかかわるようになった范雎は
それまでの秦にない外交方針を示し、
秦の版図を拡大する。
その功績により宰相となり、魏斉に復讐を果たすー



この物語には主に三人の女性が
それぞれの場面で范雎を助け
范雎の人生を転換させる役割をになっている。
地位や身分がなくても器の大きい人間は、
どこか人を呼び、人を引き寄せる力を
もっている、というところだろうか。


厠に放り込まれるという屈辱は晴らすという
復讐譚でありながら
読後感が小気味いいのは、タイトルの妙だけではなく
主人公の范雎の性格付けが上手かったところが大きい。
復讐心を外に向けて発散させるのではなく
己を研ぎ澄まさせる力へと昇華させることが
この物語を明るく、そして希望のあるものにしている。