ひこうぐも

撃墜王小林照彦陸軍少佐の生涯」
と副題が添えられたある軍人の記録。
執筆したのは、彼の伴侶小林千恵子夫人で
お見合いからの出会いと
不慮の事故による別れまでが
感情豊かに綴れている。


見合いから始まった二人の営みは
茨城の鉾田からはじまり、満州、明野、
四国、東京と落ち着く間もなくさすらい
太平洋戦争という時代の荒波に
翻弄されながらも、固くむすばれていた。


調布第244戦隊長として帝都防空にあたり
B-29に体当たりで撃墜するなど
数々の死線をくぐり抜けた小林氏だが
戦後、発足した航空自衛隊での訓練中に
機体の不調から命を落としてしまう。
常に危険と隣合わせで
必死の覚悟を要して
操縦悍をにぎる半生だったが
夫人への無限ともいえる愛情を
そそぐ氏の優しさを文の端々から
感じとることができる。


それは、英雄の物語というより
過酷な時代を生き抜き、
戦後の混乱に苦しみ悩みながらも
生き抜いた等身大の夫婦の愛の記録と
呼ぶのが適切かも知れない。


この書籍が初出されたのは昭和45年であり
防衛庁長官であった中曽根康弘氏が
序文を献じている。
否が応にも時代を感じずにはいられないが
こうした貴重な記録の再書籍化は
非常にありがたいと思う。
平和を欲しながらも
勇敢に戦った偉大な先人と
我々をつなぐ絆を絶やしてはならない。