メダリストのいる光景


http://sankei.jp.msn.com/sports/other/100314/oth1003140343002-n1.htm

「今度の土曜は試合や。見に来てや。練習にもおいでな。おもろいで。アイスホッケーほどスリリングなスポーツはないんやから」


 学生時代、私の顔を見る度にそう言う友人がいた。ではチケットを買うか、と財布を出そうとしていると、もういない。講義が終わると一目散に、アルバイト先に向かうのである。そしてそのまま練習場へ。本当に忙しい男だった。

 多忙の原因が練習場である。大阪市此花区にあったラサ国際スケートリンク。そこを一面借り切らないと、アイスホッケーの練習などとてもできない。その費用が相当な金額なので、選手はもちろん、マネジャーだった彼も身を削る思いをしていたのだ。


 そうまでして支えていたチームが実に弱かった。東京の大学と交流戦をやると、15−0、20−0といった大差で敗れた。東京と違って、北海道や長野などスケートの盛んな地方出身者が皆無に近いのだから当然である。そのうえ大学はかなり以前から、スポーツ推薦入学制度を廃止していた。かつて日本一の栄光に輝いた野球部やアメリカンフットボール部なども弱小チームに成り果てていたから、関西ではマイナースポーツのアイスホッケー部の力量など知れたものだ。

 
あまりの不甲斐なさに、私は観戦に行かなくなった。それだけではなく彼に対して、そんな張り合いのないマネジャーなど辞めたら、と言い始めた。やがて、彼の姿をキャンパスで見なくなった。疎(うと)まれたか。いやアルバイトがさらに忙しくなったのだろう。そう思おうとした。ほろ苦い青春の思い出である。大学の名は関西大学と言う。


産経新聞の記事でちょっと毛色の変わった記事を見かけた。
バンクーバーでメダリストを産んだ大学や企業のサポートについて
言及した内容のものだったが
その記述が記者の大学時代の回想から始まっており
大学でスポーツを経験した身として
その挿話に、郷愁にもにた感情がわき起こった。


マイナー、メジャーに関わらず
スポーツ選手が競技を行おうとする場合、
周囲のサポートなしでは競技活動は成り立たない。
選手が上を目指そうとすればするほど
支援の規模は必然的に大がかりなものになる。


財布の紐が固く世知辛いご時世
その効果が明確でない投資などは
当然のことながら周囲の軋轢を生む。
もし今回、高橋大輔織田信成の両選手が
入賞外の結果に終わっていたら
英断ともいえる決断を下した関係者の立場は
さぞ辛いものになっていたであろうことは
想像に難くない



スケートリンク建設を決断した関西大学
選手を雇用するためポケットマネーを
あるいはサラリーカットを受けいれる企業の代表
また今回、日の目を見ることなく終わった選手を
支えた名も無き多くの人々
決して採算ベースにはのらないマイナースポーツを
支える人たちの情熱に思いを馳せれば
自然と涙腺が緩んでくる。



一流にはほど遠く、戦うステージも華やかさとは無縁だったが
それでも競技者だったものとして言わずにはいられない
サポートをしてくれた人々に
「ありがとう」と。