作家的時評


作家的時評集2000-2007 (朝日文庫 た 51-1)



ミステリー作家の高村薫が、
平成12年である2000年から平成19年である2007年まで
朝日、読売、毎日、信濃毎日、中国新聞など全国と地方紙に
書き綴った世評をまとめたもの。



執筆した当時は、本として一冊にまとめることなど
おそらく意識していなかっただろうが
どの文章にも冷徹な一貫した視点が貫かれているのは、
流石というべきか。


平成12年頃といえば、携帯電話が生活用品として普及し
メールによるコミュニケーションが確立した頃であるが
メールの普及による日本語の省略化、語彙の少数化
それに伴う日本人の知性の後退を憂いているのは
慧眼と呼ぶべきであろう。


また、国会議員を選ぶ国政選挙の投票率低下を嘆き
投票率の低下は、票田となる特定団体に有利に働き
結果として、民意が反映されなくなるため
棄権ではなく有効票を投じることが重要だと
繰り返し提言は、彼女の明晰な文章と相まって
強い説得力をもっていた。


しかし、不偏不党であると言い
阪神大震災を通じて自衛隊の必要性を身に染みていると云いながら
防災訓練に向かう自衛隊の車両に嫌悪感を感じ
憲法改正手続き法成立させた安倍政権や
言葉を操りだけの中身の薄い小泉総理(当時)に不快感を示すなどに
異論を持つこともあった。
彼女の位置は革新派というより心情的左派かのかもしれない。



総じてみれば、ここ数年の日本を振り返り
政治を含めた日本人の行為を判断するには
格好の一冊ではないかと思う。