ファーストフードが世界を食い尽くす


ファストフードが世界を食いつくす


映画「ファーストフード・ネーション」の
記事のページに紹介されていた内容に
興味を覚えて、購入してみた。
一読して、紹介どおり、
ファーストフードで食品を購入することに
大きな抵抗を覚えるようになった。




世界を席巻するファーストフードチェーンの原型が
アメリカのカリフォルニアで生まれたのは
第二次世界大戦終戦後間もない1948年だった。
当初、ホットドックなどを屋台て売っていた業者は
大戦を挟んで訪れた車社会の到来によって
ドライブインやドライブスルーと呼ばれる店を構えて
食事を提供するよになった。


やがてチリャードとモーリスの兄弟が
キッチンの仕事から専門性を排除、簡素化して
従業員に高い能力を求めず、
メニューの数を減らし
またナイフや陶器を使わない食事を短時間で
セルフサービスで客に提供する飲食店を開店させる。


マクドナルドー兄弟の姓を冠した店が流行り
フランチャイズ方式により次々に店を開店すると、
多くの業者がこのスピーディサービスシステム模倣を始め
ハンバーガーのみならず、フライドチキン、タコス、ピザなど
多くのファーストチェーンが生まれた。


ファーストフードは自由主義による消費社会が
生み出した文化の一つではあるが
その側面には戦慄すべき現実が横たわっていることを多くの者は知らない。
新たなる貧困と搾取、食文化の破壊、肥満の増加を生み出し
多くの負の遺産を我々にもたらした。


チェーン店のキッチンやカウンターでは、安い低限の賃金で働く
ティーンエイジャーや主婦ばかり雇用され
賃上げを要求しようものならば解雇、
労働組合をつくろうとすれば脅迫、懐柔、そして店舗の閉鎖が待ち受ける。
金が必要な貧乏な学生は、日常の生活に影響がでる時間まで勤務し
中には強盗などの犠牲となる者も少なからずいる。


ファーストフードチェーンが抱える問題は、
チェーン店とその従業員のみならず
チェーンに食材を納入する業者をも巻き込んで存在している。
たとえばフライドポテトのための食材をチェーンに納入するために
ジャガイモの買い取りー加工業者は、1セントでも安くコストを減らす。
なぜなら、チェーンに納入することによって、
業者の売り上げは大きく飛躍するからだ。
僅か数セントの差で、発注を争う熾烈な競争のしわ寄せは
自然と生産者に向かう。


買い取り業者からことあることに買い取り価格を削られる生産者は、
借金して事業の拡大を図り売り上げを伸ばすか、
収入減を受け入れるかの二者択一を迫られる。
その結果、多くの農家は借金苦にあえぐか、廃業を余儀なくされている。
アメリカにおける農業の二極化は
ファーストフードチェーンばかりの責任とは云えないが
彼らの隆盛が大きな要因となっているのは間違いない。
店で1ドル50セントで購入するフライドポテトのうち
生産者に還元される金は2セントに過ぎないというのに。


ハンバーガーのパテを提供する肉の加工業者も
コスト削減のために徹底して従業員を酷使する。
彼らは英語をしゃべれない不法移民の雇用を奨励ないしは黙認している。
それは、立場の弱い彼らは労働組合の設立や
労災の申請をする恐れが少ないからだ。
それでいて危険とも云えるスピードで、牛の解体を要求し
手元が狂ってケガでもしようものなら、それを隠蔽する。
労災の発生によって手当がカットさせる現場責任者は
負傷者に対して申請しないように"相談"し、
それを聞き入れない場合は
嫌がらせを行い、解雇するようにしむける。
離職者率100%を越える職場もあり
その仕事の苛酷さもさることながら
労働者を使い捨て同然に扱う業者の非道には目を背けたくなる。


また、その加工器具を清掃する会社の従業員の危険は
その上をいく。
たとえば器具の清掃に使用する湯の蒸気で
視界が悪い中などで働らかされ
作動している機械に挟まれ、手足の切断や命を落とすことがある。
そして負傷する彼らの殆どは、社会保障の対象ではなく
多くの人間とその家族は雀の涙ほどの見舞金や給付金で会社との関係が切られ
さらなる貧困へと導かれる。。
この強烈な搾取と犠牲から成り立っているファーストフードチェーンは
一体何なのか。


また低年齢者をねらい打ちしたCMを流しては、
児童とその親を呼び寄せ
美味な食事を提供する各チェーンだが
その美味の影には、多くの人工香料が介在している。
バーガーキングストロベリーシェイクには
40前後の香味料が添加されている。
今のところ"無害"かもしれない人工香味料はまだしも
O-157などに汚染された肉が加工されて販売されている事実も見逃せない。
ある業者が納入したパテの約半数にサルモネラ菌が混入し
そうした毒入りファーストフードで被害に遭い
命を落とした子供は一人や二人ではないという。


また、そうした食品衛生に関する法律が成立しそうになるたびに
業界は圧力を加えては骨抜きして有名無実化してきた。
また仮に法案化されたとしても
流通する膨大な数を審査するには
金も人でも全く足りていない現実がそこには横たわっている。



本書は通り一辺倒のファーストフード批判ではなく
綿密な取材により構成されている。
我々は、ファーストフードチェーンの華やかCMに惑わさせることなく
この本が記している負の現実を直視するべきだろう。