ファイブ

ファイブ (幻冬舎文庫)


ビックコミックオリジナルにくさか里樹が連載した漫画の原作で
新春にNHKでドラマ化されたスポーツ・ノンフィクションノベル。
バスケットにおける日本最高のプレーヤーが
バブル崩壊の影響で次々とチームが消滅し、
活動する場所を失うという悲哀を味わいながらも
バスケットにしがみつこうとする一部始終が綴ってある。


多くのチームやアスリートがそれぞれの競技が日本一に輝いたが
どのチーム、個人にも共通したことがある。
それは「日本一を目指す」という明確な意志が出発点となっていることだ。
京都大学アメリカンフットボール部の水野監督しかり
アイシン精機バスケット部の鈴木ヘッドコーチしかりである。
そんな言霊にも似た決意ディシジョンの力の大きさを感じさせる
熱くるしい男達のストーリーである。



ミスターバスケットボールと呼ばれ、
日本代表のPGを努め日本を世界選手権に導き、
日本最高峰のバスケットボールリーグJBLでも5度の優勝と
3度のMVPを勝ち取った男・佐古賢一は
2002年の冬所属するいすゞギガキャッツが不況のあおりをくって消滅する。
日本最高のPGと言われながらも年齢と年俸がネックになって
彼を受け入れようとするチームはなかなか現れなかった。
引退を半ば覚悟した移籍期限ギリギリの6月、彼のもとに一つのオファーが届く。
それは、下位チームから脱却を目指し、
日本一を目指そうとするアイシンからだった。


アイシンを率いる鈴木貴美一は、
1995年日本リーグ二部だったアイシン精機のヘッドコーチに就任し
チームに情熱を与え、チームを1部に昇格させるものの
昇格以降、中位以下で苦しい戦いを余儀なくされていた。
鈴木は選手の補強に奔走するが、有望な大卒の選手は、
娯楽の少ない地方都市愛知県刈谷市を敬遠し、ままならず
次善の策として全盛期を過ぎてもバスケットにしがみつこうとする選手らを
チームに招き入れる。


バスケットを愛するが故に居場所がなくなった選手や
バスケットマンとしては二流以下で、スピードや運動量が衰えつつも
それでも上手くなろうとする選手
子供に自分のプレーする姿を目に焼き付けようとして現役にしがみつく選手など
それぞれがそれぞれの理由でバスケットを愛するプレーヤーが
アイシンを訪れ多く在籍するようになっていた。
違う音色をもつ選手が集まり、心を一つにして協奏曲をかなでるとき
一つの夢が現実になろうとしていた。




全盛期を過ぎた選手達が、サラリーカットを受け入れてまでも
現役にこだわり、もがき
そしてそれを必死に支えようとする人たちの熱い思いに
思わず涙が滲んでしまった。
プロゴルファーのなんとか桃子が
食べていくことのできないスポーツで
トップを目指すことに興味をもてないといった類のことを書いてブログを炎上させたが
そんなことは、二十歳前後の小娘にわざわざ言われなくても
マイナースポーツをしている男なら誰だって知っている。
それでも、男達は、多くの理由を背負ってそれぞれのスポーツを愛し
生きているのだ。
関係者以外には、誰にも見向きもされない愚痴をこぼし、不満を抱えながらも
スポーツが好きで好きでたまらない、どうしようもないスポーツ馬鹿が
この日本にはゴマンといるのだ。
そうしたことに思い当たる中年オヤジは
トップアスリートであろうとなかろうと必読の書ではないかと思う。