ローマ人の物語29〜31


ローマ人の物語〈31〉終わりの始まり〈下〉 (新潮文庫)
ローマ人の物語〈30〉終わりの始まり〈中〉 (新潮文庫)
ローマ人の物語〈29〉終わりの始まり(上) (新潮文庫)










「終わりの始まり」とサブタイトルがついた今回は
人皇帝と呼ばれた五賢帝最後のマルクス・アウレリウスの登位から
愚帝であるコモドゥス、短命政権に終わる二人の皇帝を経て
人皇帝であるセプティミウス・セヴェルスまでの治世を綴っている。


一般にアウレリウスが、息子のコモドゥスを皇帝の座を世襲させたことから
ローマの弱体化が始まったとされるが
作者は帝国衰退の芽はアウレリウスの治世にあり
たとえコモドゥスが悪政を行うとも彼を後継者に指名したのは
間違いではなかったと作者は大胆な意見を述べている。


アウレリウス治世の頃、帝国の北辺であるドナウ河上流域が不安定になり
これを鎮圧する必要性に迫られたローマ帝国は同地域の属州化を狙い
大規模な攻勢をかけ、目標の達成にあとわずかなところまで戦争を進める。
しかし、アウレリウスが死亡したと誤報か流れたことにより
ローマ帝国に内乱が発生する。
そのためゲルマニア戦役は中断ないしは停滞を余儀なくされ
無為な時間を費やしたアウレリウスは寿命が尽き
結果的に目標を完遂できないまま命を落とす。


アウレリウスの後を襲ったコモドゥスは戦を忌避し
父親が立てた帝国の防衛構想を反故にしてしまう。
それでもコモドゥス治世最初の頃は近衛軍団長官ペレンニウスが
政を仕切り、防衛問題を始め様々な問題に対処していたが
コモドゥスの善政として評価できる時代は、早々に終わる。
アウレリウスによって皇后アウグスタの地位を贈られた姉が
その虚栄を暴走させ弟コモドゥスを暗殺しようとしたことが
コモドゥスの心に暗い影を落とし、彼を猜疑心の強い人間へと変貌させる。
被害妄想に陥ったコモドゥスは、狭量な判断から
国家にとって有為な人物を排除し、姦臣による側近政治を横行させ
自身を暗愚な皇帝へと落としめる。


結局、政治らしい政治をすることなかったが悪政を蔓延らせたと
コモドゥスは暗殺されてしまうのだが
コモドゥスの後、推挙された叩き上げの軍人ペルティナクスも
近衛軍団長官の処遇を誤り、暗殺され、ローマ帝国は内乱へと突入する。
結局はセプティミウス・セヴェルスが内乱を能うかぎり至短時間で
ローマを統治するのだが、この際に行った軍政重視の改革が
帝国の衰退の呼び水となる。


塩野七生は、先月の文藝春秋のコラムで
国家において何よりも重要視すへきは安全であるが
国民は目に見える数値でしか為政者を判断できないー
しかし、生活が改善されなくても、
その期待感だけで庶民は為政者を支持すると選挙結果を
予測した意見を述べつつ
国の成長が停滞もしくは衰退に入った国で
緊急の内外の課題が多数あるときに
政争に時間を費やし国家を大きく弱体化させることを危惧していた。


今の日本があらゆる意味で学ぶところが多い
実例に満ちたローマ帝国の「終わりの始まり」である。