ハゲタカ2


ハゲタカ2(上) (講談社文庫)ハゲタカ2(下) (講談社文庫)


痛快無比。
前作「ハゲタカ」で魅せたプロットやストーリーの面白さを
上回る経済小説にしてエンターティメントノベル第二弾。
魂を揺さぶられるほどの感動と興奮がそこにはあった。


日本の政財界の闇を白日の下に晒し、
不本意ながら国外追放を余儀なくされた主人公・鷲津政彦。
世界各地を放浪して1年ぶりに故国に舞い戻った時、彼がみたものは
彼が築いた王国の崩壊とあいも変わらぬ日本政財界の愚鈍な姿だった。
腹心の部下の死と日本政府による巨額取引の妨害に
心の糸が切れた鷲津はハゲタカの面目躍如よろしく、
自暴自棄ともいえる生活と仕事を繰り返す。


ある時、日本の電機メーカーが開発した技術を巡って
雇用主とトラブルになりファンドを解雇されてしまうのだが
かつての旧敵が意外な手を差し出し
再び、悪鬼と修羅、魑魅魍魎が蠢く世界へ身を晒す。



前作「ハゲタカ」で極悪非道の無類な強さを見せつけた鷲津だが
「ハゲタカ2」では、その逆の脆さと弱さをさらけ出している。
部下の死に深く傷つき、ビジネスの目的を忘れ、人生の意味すら見失い
そして、アメリカの巨大ファンド相手に徹底的に追い詰められる。
以前の鷲津であれば、不利な条件や状況であればあるほど
それをひっくり返そうと躍起になるのに、肝心の彼にその気がない。
魂の抜け殻といっていい状態なのだが、
それでも彼のチームは彼を「魔術師」よろしく崇め奉り、彼の復活に賭ける。
いうなれば「ハゲタカ2」は、
主人公鷲津の復活と蘇生が物語最大の肝にして主題なのである。


それにしてもこの小説の面白さは、どこからくるのか。
億単位の取引をまるでパチンコの球のように扱うスケールの大きさもさることながら
主人公のキャラクターが立っていることにあるのではないかと思う。
外資の手先となって足腰の弱った日本の企業を買いあさり、
リストラして好調な部門を高値で売り飛ばし金を儲けるような人間が
果たして小説の主人公となりえるのだろうか。
普通に考えれば悪役になりえてもヒーローにはなり得ない。
しかし、この小説で間違いなく彼はヒーローである。
それは、彼の生き様が、とぎすまされた日本刀の様に鮮やかだからである。
返り血を浴びることはおろか、肉を切られることになろうとも
狙った獲物を確実に仕留める猛禽類の捕食行為に似た彼の行動が
たまらない興奮と共感を呼ぶのだ。
そうした強烈無比な主人公を立てたことがこの小説の強みにして
最大のエンターティメントとなっている。


サムライとは見てくれや地位ではなく、生き方ではないかと
柄にもなく考えさせられた小説である。