天使と悪魔

天使と悪魔 (下) (角川文庫)天使と悪魔 (中) (角川文庫)天使と悪魔 (上) (角川文庫)










ダヴィンチコードで世界的にブレイクしたダン・ブラウン
「ロバート・ラングントン」シリーズ第1作
美術史や宗教関係、物理学に疎い人間は、
「そうだつたのか」とつい引っ掛かってしまうほどの緻密に練られたノベルである。


世界最先端の素粒子研究所セルンで神父の資格を持つ研究者が
残忍な方法で殺される。
象徴学の権威であるラングントンは、アメリカから急遽ジュネーブまで
呼び寄せられ、研究者の死体に刻まれた紋様の意味について問われ
事件の渦中に否応なく放り込まれる。


研究者の死体に刻まれた焼き印、それは中世ヨーロッパ、キリスト教会に
迫害された科学者達の秘密結社イルミナティのものだった。
時間とともに地上から消滅したと思われた同組織の仕業と目される事件が
次から次へと明らかになる。
セルンで研究されていた極少量で核並の爆発力を持つ反物質の盗難
カソリック教皇を選出するコンクラーベ出席者の誘拐及び殺害
そしてバチカンの破壊予告
イタリアの彫刻家ベルニーニの作品と
イルミナティの一員だったガリレオ・ガリレイの著書を
手がかりに謎の暗殺者にラングントンが迫るという筋書きのミステリーである。


作中では、科学の進歩は人類の幸福にどれくらい貢献したのか
宗教(キリスト教)は果たして人を幸せにしてきたのか
宗教と科学は相容れないものなかの、それとも融合するのか等々
最もらしいテーマが語られているが
この作品の本質はエンターティメントであり、
肩肘張らずにミステリーとして読むのが正解だと思う。
余裕がある人間は、前述したテーマについて考える契機にするのもいいだろう。


日本での出版は2003年であるが、原書は2000年に頃に出版されたとのこと。
最先端の科学技術を盗み、神を信じる教会総本部の爆破を試みるという設定は
否が応でも2001年の出来事を連想してしまう。
民主主義と資本主義経済が至上のものと信じて
他国他民族の価値観を蔑ろにするアメリカの象徴であるNYが
同国の航空機操縦教育機関を利用したテロによって破壊されたことは
ただの偶然の類似性か、それとも形を変えた予言だったのか
気になるところである。





なんとくA.J.クイネルの「バチカンからの暗殺者」と「メッカを撃て」を思い出す小説だった。



ダ・ヴィンチ・コード(上) (角川文庫)

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ヴァチカンからの暗殺者 (新潮文庫)

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メッカを撃て 新装版 (集英社文庫)

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