隠された証言?日航123便墜落事故

隠された証言―日航123便墜落事故 (新潮文庫)




日航123便御巣鷹山に墜落して20以上が経過した。
事故の公式見解は、ボーイング社の修理ミスにより
圧力隔壁が飛行中に破壊され、
その結果操縦を司る油圧系統が破損し
操縦不能にとなり墜落に至ったというものであった。


パイロットの作者・藤田日出男氏は、こうした事故調査委員会の見解及び
救難捜索活動に異を唱え、事故の真相が隠されていると述べている。
たとえば、事故当初、墜落からわずか2分後に
百里基地からF-4ファントム戦闘機がスクランブルしている対応の速さや
防衛庁が探知した墜落の現場の位置が何度も変更になったりして
救難活動が遅れた点を指摘し、救難活動の前に
誰かにとって都合の悪い証拠が隠蔽された可能性を指摘している。


ただ、この点について
現役航空(&軍事)マニアのtacaQに言わせてもらえば
今も当時も日本及び周辺の空は、航空自衛隊が24時間常時監視しており
国籍不明機が領空に接近すれば5分以内に戦闘機を緊急発進させている。
墜落から発進までの時間があまりない点を不自然と述べていたが、
遭難機は、墜落直前に緊急信号であるスコォーク77を点灯させており
航空自衛隊側で機転を利かせて、偵察の準備をさせていた可能性もある。
また、防衛庁のヘリや飛行機が何度も飛行し、墜落現場が変更になった点は
薄暮から夜間にかけての山岳地であり、地形の誤認は致し方ことだと思う。
作者は、一律に防衛庁側と指摘しているが、当時の自衛隊では
陸海空の航空機を一元的に運用する体勢は整っておらず
報告系統が違ったために、地点が錯誤したことも充分に考えられる。
いずれせよ、当時も今も当事者ではないので、断定することはできないが
tacaQの見立てはそう外れてはいないと思う。


ただ、その他の指摘、
急減圧はなかったという点や操縦系統が昨日喪失に至った経緯
レコーダーに記されたパイロットのボイスを聞き間違えたことや
調査にパイロットからの証言や確認をとらなかった点などは
それなりに正しいと思われるが、
それをもって、ボーイング社が機体の構造的欠陥を隠し、
責任を回避するために事故原因として修理ミスをでっち上げたと
結論づけるには、説明や証拠が不足している。
著者は事故調査委員会周辺から漏れてくる情報を
分析するしかなかったのかも知れないが、それだけで事故調査委員会の結論を
事実とかけ離れたものとするには、あまりにも論理が飛躍している。


戦後の日本航空史においては、
日本側が調査できなかったもくせい号事件や
予断をもって事故調査が行われたとしか思えない雫石事故など
政治的なものが調査に影響を及ぼしたと考えられる事故がいくつかあるが
だからといって、この事故の調査結果が政治的な思惑が働いた結果だと
断言することは当て推量以外の何者でもない。


真実を求める氏の姿勢は買うが、
この本の説明だけでは、氏の意見に同意することはできない。





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