出口のない海

出口のない海 (講談社文庫)



甲子園の優勝投手・並木浩二は、
大学入学後間もなく肘を壊し
公式戦に出場することがないまま3年を過ごす。
それでも彼は野球への思い已み難く、復帰を夢見て練習に励むが
折しも戦局が悪化、学徒出陣となり海軍へ入隊する。
入隊後間もなく、並木は状況をよく理解しないまま
新しく開発された兵器の搭乗員となることを希望してしまう。
極秘に開発した秘密兵器とは海軍が戦局を一挙に挽回するために回天と名付けたもので
文字通り敵艦と差し違える特攻兵器人間魚雷であった。
決死でなく必死の兵器である事実を知った並木は衝撃を受け
山口県光市で、来る日も来る日も死ぬための訓練に明け暮れながら
野球や幼なじみへの慕情抑えきれず、生と死の狭間で葛藤するー



ミステリー作家横山秀夫が、95年に上梓した作品で、
警察モノがウリの横山としては異色の戦争物語
主人公が敵を殺したくない、などと今時の若者風の言動をして
ファンタジーのような印象が残る話であり、
作者の若さというか物語としてツメの甘さを感じる。
もっとも回天に搭乗を希望した者全員が、明鏡止水の境地に達していたわけではなく
娑婆っ気の抜けない予備士官もいたであろうから
主人公のような設定もアリなのかも知れない。


物語のディーテルもさることながら、肝要なのは
60年前この国には死を厭わず従容と死んでいた若者達が大勢いた事実を
正確に語り継ぐことではないかと思う。