零戦


http://www.nhk.or.jp/sonotoki/sonotoki_syokai.html#02
8日の夜NHK「その時歴史は動いた」で太平洋戦争を題材として
零戦の開発や運用に焦点を当てて、海軍の零戦の欠陥や海軍組織問題を指摘していた。
零戦の弾に対する脆弱性が、被撃墜率の増加やパイロットの消耗を招き
そうした欠陥を知りながら目を瞑り、根本的な対策を立てずに戦おうとした海軍は
組織的に問題がある、という内容だった。
確かにNHKが番組で紹介したことに間違いや嘘はないのだが、
物資や人手が慢性的に不足し、低レベルにあった工業生産の当時の状況を考慮せず
戦後の今の基準で、海軍を糾弾することは、本当に正しいことなのだろうか。



番組では海軍が開発者にあまりにも過剰な要求をしたたために
軽量化せざるを得ず、結果として脆弱な戦闘機になってしまったと説明していた。
開発にあたり海軍が三菱、中島に出した主な要求性能は以下のとおり。

  1. 使用別 航空母艦(基地)
  2. 用途
    1. 攻撃機の阻止撃攘
    2. 敵観測機の掃討
  3. 特性 速力及び上昇力優秀にして敵高速機の撃攘に適し、且つ戦闘機との空戦に優越すること
  4. 航続力 正規満載時全力1時間
  5. 機銃 20mm1〜2。1の場合は7.7mm 2を追加。弾薬包は20mm 1につき60、7.7mm 1につき300
  6. 実用高度 3,000m乃至5,000m用途 

それまでの日本の航空開発技術を思えば、無謀とも思える要求だが
日米開戦が不可避となりつつあった当時の状況を思えば、その要求はあってしかるべきだろう。
海軍としても、その要求が簡単に実現できるとは思っていなかった筈だ。
しかし、出来ない、ではすまない立場に立たされていたことを無視して
海軍の技術軽視というのは、片手落ちである。
また、零戦の翼端をカットして燃料タンクを減らしたためにガダルカナルで苦戦したこと
そして防弾に対する指示を出さなかったことで海軍の先見性のなさや組織の硬直性を
述べていたが、当時航空戦は日進月歩の様相で進んでおり、
昨日の常識が今日は非常識とされるようなめまぐるしい展開で戦争が進んでいく中で
未来の戦場を正確に予測することを誰ができたのだというのだ。


NHKは結果として零戦は致命的な欠陥を有していたといいたかったのだろうが
そもそも今の基準に照らして考えれば、あの当時欠陥でなかった飛行機はない。
仮に欠陥だからといって、それをゼロから作り直すだけの時間的余裕や能力があったのか。
分厚い鉄板でパイロットとタンクを防護し、なおかつ
軽快な運動性能を確保できるようなエンジンが日本で開発されていたとでもいうのだろうか。
満足に自動車すら量産する設備がない国が、
工場から航空基地まで牛車で運ぶような国において
それが可能だったあろう筈がない。



コンピューターもなく手書きで複雑な構造計算を行い、
材料特性の計算などまだ研究の余地があった時代背景を考慮せず
ああすれば良かった、こうすれば良かったなどと言うのは誰にでも言える。
NHKの言ってるいことを今に当てはめて考えてみよう。
かの放送局の主張が的はずれなのは一目瞭然だ。
商業化できなかったアナログハイビジョンの開発に多額の受信料をつぎ込んだのは
どこの放送局だ?
視聴者の怒りを無視して多数の受信料不払いを招いたのはどこの誰だ?
そもそも"今"を正確に認識して”明日”を予測できる人間が
この国に限らずどこの国にいたというのだ。


大艦巨砲主義の硬直した思想の海軍と嘲るのもいいが、
来るべき将来航空兵器が戦争の主役になることを予見し、
開戦時には実力世界一の航空部隊を作り上げたことを無視して批判するのは
片手落ちというより、明らかに公平性を欠く。
海軍や軍部を責めるのであれば、陸海軍の縄張り争いや
ガタルカナルに航空基地を建設をした戦略上の誤りを糾弾すべきだろう。
さらにはそうした勝てない戦争を戦った海軍ではなく
その戦争を熱望した国民を非難すべきではないのか。


私見だが
零戦があったからこそ、日本は短い時間とはいえ米国と互角以上に戦えたのだ。
太平洋戦争後期は、P51やF4Fなどに苦戦したが、
そもそも常識的に考えて後から開発・導入された飛行機と互角に戦えるあろう筈がない。
仮に零戦なかりせば、
それこそドイツとソ連に侵攻されたポーランドのようにあっというまに攻め滅ぼされ、
世界中を覆っていた人種差別の風潮はさらに強まり、
焦土敗戦より悲惨な悲哀を我々は味わったであろう。
敗戦という結果より、4年間かく戦ったという過程を私は評価する。
偉大な戦闘機を開発し、血を流しながら戦った英霊を民族の誇りと思う。


以上、歴史修正主義者の独り言である。





零戦燃ゆ〈1〉 (文春文庫)

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