元東洋ミドル級チャンピオン・カシアス内藤の師にあたる故エディ・タウンゼントは
『純一には全部教えた。全部教えて世界チャンピオンになれなかったのは純一だけ」
と彼のことをいっていた。
絶対あきらめない
かつて天才と呼ばれたころ、リングネームを世界一強い男、カシアス・クレイ(モハメド・アリ)から頂き、東洋ミドル級のチャンピオンベルトを巻いて煌々と輝くライトを浴びていた。リングを去って二十年、実家の土地をめぐるトラブルから横浜市職員を殴って逮捕されたこともあった。
挑戦とどん底、両方骨身に染みるほど味わった。転落の経験があるから、はい上がる勇気が持てる。念願だったジムを開設して十一カ月あまり。拳を通じて自分が感じてきた「生の証」を伝えたい。そんな「いつか」をつかみ取るため、病と闘いながら、再び夢に手を伸ばしている。
(中略)
長距離運転手をしていた六十三年二月、最後の弟子井岡弘樹の世界初防衛戦勝利の報を待って、エディが亡くなった。急報を聞いてトラックを走らせて、悲しい対面を済ませて帰宅後、八歳だった娘に「パパ、またボクシングを始めようと思うんだ」と話した。娘は「エディさん、死んじゃったからたね」と答えた。
「エディさんの教えを伝えたい。教える限り、エディさんは死なない」。そう思っていた。驚くべき、娘の理解力だった。
以来、女性専用ジムの雇われ会長や、大和武士、井岡らの特別コーチなどを務め、ようやく自らのジム開設のめどが立ち始めた三年前の秋、体調の異変に気づいた。末期の咽頭ガンと診断された。医師からは切除手術を強く勧められたが、拒否した。
「気道が八割ふさがっていたんだけど、切ったら声が出せなくなるからし、ボクシングを教えられなくなるしね」
一日二回の抗がん剤で病気の症状は小康状態を保っている。薬の負担は大きいが、あきらめはしない。勝ってリングを降りるのか、負けて降りるのか、自分が決めるしかない。それはボクシングと同じだ。
「ボクシング・イズ・マイライフだよね。いい思いも嫌な思いもしたけれど全部ボクシング携わっていたから
エディさんからは『ボクシングを好きになりなさい・一生続けていけばいい。ボクも続けていくから』って云われたんだ。おれも逸しよう続けていくよ」(大地山隆)
平成18年1月8日 産経新聞
「クレイになれなかった男」「一瞬の夏」のノンフィクションでカシアス内藤を
描いた沢木耕太郎は、彼を評して「やさしすぎるのが欠点だ」と述べていた。
職場で日遅れの新聞をめくっているとカシアス内藤の記事を見つけた。
ちょうど昨年の今頃、彼ががんに犯されながらもジムを立ち上げた件について
エントリーを書いたが、彼がまだ人生という名のリングで戦っていることに安堵した。
以前、彼をモデルにして名曲「チャンピオン」を書き上げた谷村新司は
2002年初春、彼のことを再びモデルにした曲「クリムゾン」を発表した
唇から流れおちた一筋の赤が 自分に向けたリベンジのブルースを歌っている
背中を灼く赤いホルス 銀のたてがみに
挫折の中で誓っていた あの頃だけは忘れない
守るのも失うのもあるけど
挑む勇気だけをもう一度確かめたい
彼が歌うブルースを一日も長く聴いていたいと思う。
(過去関連記事)
エディ・タウンゼント
クレイでなく内藤
一瞬の夏

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