異国の丘

湾岸戦争後日本は人的国際貢献をすべしという主張を自ら実践すべく創設した「日本国際救援行動委員会(JIRAC)」は、カンボジア難民救援12回、シベリア老人ホーム、孤児院、身障者救援の日の丸掲げてのボランティア活動9回を行った。シベリア支援の際は、ウラジオストック近郊の日本兵墓地に毎回墓参したが、ある時不勉強な男子学生が「ここはどんな日本人が埋まっているんですかね?」と質問した。私の隣で草むしりしていた青山学院大学伊藤憲一教授が爆発した。「歴史を学べ、不法なシベリア抑留で憤死した6万の日本兵の墓地だ」


約90人の学生たちは凍りついた。するとシベリア4年抑留の篠田慶治元警視庁警視が「私の戦友たちだよ、寒くて飢えててキャベツ1個盗んだ戦友が目の前で射殺された。その私がなぜ参加したかというと近所の老婆が我々を憐れんで食物を恵んでくれた。そのお礼にきたんだよ」


佐々淳行

「近衛文隆の“心”が眠るシベリアの大地」



劇団四季の「異国の丘」を観てきた。
正直言えば、このミュージカルには大きな期待はしていなかった。
なぜなら以前に観た「南十字星」「李香蘭」二つの劇は
自分の予想とはかなり違った演出が施されていたからだ。
歴史認識や思想、地位によって異論のあるテーマを扱う以上、この手の劇は
演出にある程度の妥協は仕方がないと割り切って観賞するより他がないと諦めていた。
しかし今回この予想はいい方に外れた。


戦前のNY、戦中の上海、戦後のシベリアを舞台として
日本宰相の長男・九重文隆と中華民国蒋政府要人の娘宋愛玲の恋愛を軸に展開された物語は
場面ごとの暖と寒、愛と死、動と静、享楽と残虐、彩と無色などの対比が際だっており
実話がベースとはいえ、フィクションを無理ない演出で構成しまとめていた。
それゆえ劇への感情移入は、容易であり、舞台の言葉が歌が、胸に深く染みた。


特にNYで出会った宋愛玲と九重秀隆が
戦争によって引き裂かれ、互いへの愛を船上で歌い上げる場面と
ソビエトの不当なシベリア抑留でかつての皇軍兵士が次々と倒れ
祖国を思い、家族を思いながら、遺言を戦友に託して
シベリアの土に埋もれていく場面は、
胸に熱いものがこみ上げ、涙が滲んだ。
気が付けば、真っ暗な観客席のここかしこからすすり泣く音が聞こえてきた。


昭和三部作で、一番陰惨な話ではと警戒した話だが
個人的には、物語としては一番完成度が高いと感じた。



ブラーボォ。