狂牛病

定期巡回している前田有一の超映画批評
今週は休みということでかわりに日替わり文が載せてあった。曰く

ちなみに、アメリカ産牛肉は本当にひどい肉ですよ。日本にその4割を輸出していたT社の内部告発によれば、現場じゃいまだに「背割り解体」(まともな国ではとっくに禁止)が行われていて、危険部位の除去なんて忙しくてやってられないそうです。BSEだってあの国じゃ報道されないだけで、水面下じゃ蔓延してるでしょう。アメリカはアルツハイマーの患者が1979年比でなんと50倍以上に増えてるそうですが、エール大の研究チームの話では、その中には確実に狂牛病由来の患者が含まれているってんですから。


(中略)牛の場合、その無理がたたって病気(BSE)になるのが大体生後20ヶ月なんで、米国の牛肉の8割以上は20ヶ月未満の若い牛です。その時点でさっさと屠殺して部位別に輸出するわけです。だから日本に「20ヶ月以下の牛は検査しなくても安全」なんて言わせたいわけです。今のように「全頭検査」をやられると困っちゃうわけです。


しかし、こういう事実を知りながら、米国産牛肉輸入解禁圧力をかけた吉野家ってのは何なんでしょうねぇ。今まで使ってた産地の肉がアブナイとわかったから輸入停止にしたんですよ? だったら安全な産地の肉に変更して、同じ味を再現しようとするのが企業努力ってものでしょう。他のチェーンは普通にオーストラリア牛肉に変更して牛丼作ってるじゃないですか。それがマトモな会社のやることでしょ。むしろ、「今までろくでもない肉を使ってすみませんでした。今後は二度と使いませんのでご安心ください」の一言くらいあってもよさそうなもんです。
それをなんですか? 「米国産牛でなければ同じ味がでない」だの「豪州産では価格を維持できない」「だから元通り輸入しろ」などと、どこをどう考えたらそういうセリフが言えるのでしょう。理解に苦しみます。


と、アメリカ政府と吉野家の圧力に屈した日本政府というわかりやすい構図で批判している。
それなりに的を射ている部分もあるのだが、事実誤認や誤解が少なからずあると思う。
櫻井よし子さんによると


http://blog.yoshiko-sakurai.jp/archives/bse/index.html

週刊新潮』 2003年9月25日号日本ルネッサンス 第85回

8月28日、農林水産省BSE牛海綿状脳症)疫学検討チームはBSEの感染源及び感染経路の可能性として、7つの仮説を発表した。同チームは再発防止策を盛り込み、今月中にも報告書を作成する予定だ。検討チームが列挙した7つの原因の内、4つまでが肉骨粉に関連した内容だ。生まれたばかりの子牛に与えられる代用乳及び配合飼料に入っていた動物性油脂なども原因の可能性としてあげられている。座長で日本生物科学研究所主任研究員の山内一也氏が「肉骨粉が配合飼料に混入したことが感染源・経路の可能性として高いと考えられる」と指摘した旨、報じられたが、なんとも微妙な指摘である。これまでの農水省の対応を見れば、専門家がどれ程真摯に取り組んでも、日本のBSE感染原因は決して明らかにされないと思えてならない。


日本のBSE感染牛7頭には3つの共通点がある。出生の時期が95年12月5日から96年4月4日の約4カ月間に集中していること、生後「ミルフードAAスーパー」「ぴゅあミルク」「ぴゅあミルクH」など、科学飼料研究所高崎工場で生産された代用乳が与えられていたこと、肉骨粉は与えられていないことである。上の代用乳の製造元、科学飼料研究所は全国農業協同組合連合会(全農)の100%子会社だ。


肉骨粉が原因だと決めつけられたような状況の中で、感染牛第1号の発見から約1年後の2002年8月5日までに、757頭の給与牛が処分、検査されたが、感染牛はゼロだった。今年5月末までに検査した1600余頭の給与牛にも感染牛はみつからなかった。給与農家は、非感染でも給与牛を全て焼却する厳しすぎる監視体制は解除せよと一貫して農水省に要求してきたが、農水省は監視を緩めなかった。消費者に安全な牛肉を届けるためには致し方ないという主張である。給与牛への厳戒体制とは対照的に、感染原因の可能性を当然追跡しなければならない全農子会社製の代用乳の調査はどうだったか。農水省も早速調査に入った。問題の代用乳にはBSE発生国オランダで製造された粉末油脂が入っていたため、2度にわたり、オランダに職員を派遣した。結局、代用乳中の油脂にBSEをひきおこすといわれる異常プリオンが混入したか否かは、明確ではないと農水省は結論づけた。調査のため海外に職員を派遣しながらも、農水省には真の原因を突きとめる気がなかったと思えてならない。なぜなら彼らは病気などで死亡した牛を検査なしで処分させるという決定的な抜け道を用意し、その体制を1年半も続けたからだ。


化製場と呼ばれる施設に送られるのは、法律上は死亡牛のみである。だが、病気などで動けなくなり、他に行き場のない牛も、運び込まれるのが現状だ。日本では毎年約15万頭の死亡牛が出る。農水省は、危険率の最も高い化製場送りの牛を検査なしに処理させ続けた。他方で、2001年10月18日から、市場にまわる牛、つまり健康牛の全ての検査を始めた。彼らはこれを“全頭検査”と呼び、“世界一厳しい基準”だと胸を張った。が、18万頭の感染牛を出した英国でさえ、生後30カ月未満の牛は検査なしで市場に出している。BSEは30カ月未満では発症しないとされているからだ。したがって若い牛も含めて全頭検査する日本の政策は、科学的には意味をなさない。非科学的な全頭検査は、政治的には、世界一厳しい検査体制という看板の裏で、真の原因を隠す皮肉な役割を果たした。農水省が死亡牛の検査を始めさせたのはようやく今年*14月1日からだ。それでも北海道や畜産県が集中する九州など16道県は、来年4月までさらに1年間猶予された。


今年6月末まで農水省生産局畜産部衛生課長としてBSE問題を担当してきた伊地知俊一氏は、検査開始に1年半を要したのは、屠畜場での検査体制が整わなかったからと説明した。だが、この猶予期間が、その間に感染の疑われる怪しい牛、特に、95年暮れから96年春にかけて生まれ、全農子会社製のミルフードAスーパー、ぴゅあミルク、ぴゅあミルクHなどの代用乳を与えられた牛は処理せよと言わんばかりの措置と受けとめられたのは事実だ。1年半あれば、粗方の疑惑牛は病気や故障牛、死亡牛として、片づけられる。まさに巧妙なBSE隠しである。その間、世間の注目をあびた給与牛だけは健康牛・死亡牛にかかわらず、全頭を検査、焼却処分にしてきた。


引用が長くなったがtacaQなりの要約を許してもらえるならば、
日本の狂牛病の原因は農協の子会社が生産した代用乳が非常に疑わしく、
農務省はその事実を隠蔽するために、
肉骨粉をエサとした牛をスケープゴートならぬスケープビーフに仕立てて
世界一厳しい全頭検査体制といっても、生後30か月未満の牛は発病することがないことから
全くの無意味であり、逆に感染の可能性が高いと思われる代用乳を与えた牛は
発病する前に病気牛・故障牛として検査なしで処分するのを黙認した、ということになる。


ついでに言うならば、農水省は80年代後半から、英国でBSE騒ぎが起きたときに
全くこれに対する対策をとらずに英国牛を材料とした飼料等を輸入し
それがためにEUから狂牛病発症の危険度カテゴリーを4段階中の危険度3に指定され
EUの評価に逆ギレしてクレームをつけたら狂牛病を発症させてしまい恥をさらしている。


酪農の経験はないし、科学的なことは無知なので
櫻井よしこ氏のいうことが全面的に正しいかどうかわからない。
が、このBSE騒ぎで廃業する酪農家が続出し、責任を感じた獣医が自殺までしている。
真に責任をとるべきは誰なのか。
AIDS薬禍の厚生省程度とまではいかなくても、
農水省の怠慢はそれなりに非難されるべきだと思う。

*1:2003年