メディアの偏向と日本の立ち位置

「ありがとう」ブッシュはいった。
「みなさんに知ってもらいたいのです……」
そこでは、残骸と群衆の巨大な谷間が、小さな携帯拡声器からの声を呑み込んでしまったようだった。
「聞こえないぞ」ひとりの救助隊員が叫んだ。
「これで目いっぱいだよ」ブッシュは笑いながらいった。
アメリカは今日、ここで命を落としたかたがたのたるにひざまずいて祈ってます……」
別のところから、また、声があがった。
「聞こえないぞ」
ブッシュはほんの一瞬間を置きベックウィスの肩に腕をまわすと、大声で答えた。


「わたしにはあなたがたの声が聞こえる。世界中の人々にもあなたがたの声が聞こえる。
 そして世界貿易センタービルを倒したものたちも、
 間もなくわれわれの声を聞くことになるだろう!」



「ブッシュの戦争」ボブ・ウッドワード

メディアの偏向


日高義樹の「二〇〇五年、ブッシュは何をやるのか?日本はどう生き残る」と
ボブ・ウッドワードの「ブッシュの戦争」を読了
「ブッシュの戦争」はオビに"イラク戦争はこうして決断された"と文字が打ってあったが
内容は、アフガンでの対テロ戦争発動までのブッシュチームの活動がメインで
寧ろイラクへ対する攻撃は、アフガンからの流れに過ぎなかった。
いずれにせよ、ブッシュのテロに対する断固とした意思とリーダーとしての振る舞いが
丁寧に述べられており、"親ブッシュ"といかなくても少なくても"反ブッシュ"の本でなかった。
反ブッシュの本にみせかけて売り上げを伸ばそうというのならまだしも
ブッシュのイメージを失墜させるためにオビを打ったのであれば、
日経も大分こすからいことをする。


メディアがリベラルに振れて、反権力を指向するのはある意味健全な姿と云えるかも知れないが
それも程度によるだろう。


反MSM(マス・メディアが報じないアメリカ:アンタゴニズム)を見ると
アメリカのメディアも日本同様左に傾きすぎて、
公益性や社会性を著しく損なっているように思える。


http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20050707it03.htm

米中央情報局(CIA)工作員情報漏えい疑惑で、
ワシントンの連邦地裁は6日、「取材源の秘匿」を理由に
証言を拒んだニューヨーク・タイムズ紙のジュディス・ミラー記者(57)を
法廷侮辱罪で収監する命令を下し、同記者は即座にワシントン郊外の刑務所に収監された。

ブッシュ大統領が司法まで巻き込んで記者に圧力をかけたように聞こえてくるが、
それより以前にCIA工作員の氏名を報道したことの是非を問うべきだろう。
情報局員が身分を偽装カバーして潜入して、潜入するのはイラクに限ったことではないが
そうした工作員の氏名を明らかにするのは、工作員の命を危険に晒すことになる。
"裏"の情報収集は必要不可欠である今のイラク
それを露見させることは、工作員だけでなく、工作員を送るために費やした資金、人材、時間が
全て無駄となり、場合によっては国家的な損害を招く恐れすらある。
CIAの独走を全て認めるというわけでないが、報道の自由という美名の名のもとに
人の命や政府の努力を踏みにじる行為は、到底看過できるものではない。


日本の立ち位置


さて、二冊を読み終えて思うことは、日本の立場が難しくなってきた、ということである。
悪魔のように云われているラムスフェルドだが、その頭脳は非常に優秀であり、
彼の頭の中では、テロ封じ込めの策略でほぼできあがっている。
ただ、それを理解できる人間が制服組におらず、
ラムズフェルドが一人で突っ走っている感があるが、おそらく世界は彼の読みどおりに動くだろう。


トランスフォーム


ラムズフェルドは、アメリカ軍を従来の戦争組織から低烈度紛争LIC*1
対応するスリムな軍隊への大規模な変換を要求している。
勿論、戦車や歩兵、戦闘機の全てを削減しろというわけてないが、それでも少ない部分において
兵器や兵装の転換を軍に要求している。
また、イスラムテロリスト封じ込めの等の理由により、国外に駐留するアメリカ軍のうち、
西欧の軍を東欧に、東アジアの軍に中央アジアへ移駐することを計画している。
軍を韓国はもとより日本からも米軍が撤退(移駐)させることも画策しているが
軍備を拡大する中国に対しては、アメリカがそのバランサーとなるための最低限の手当はしている。
ただ、このままいけば日米安全保障体制の大幅な変更は、避けられないだろう。


現在、外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)。*2
開かれているのはこうした背景がある

日本の今後


イラクへの派遣を巡り
「なんでそんなややこしい憲法を作ったんだ」と云ったラムズフェルド
アメリカが作って押し付けたんだじゃないか。」と福田前官房長官から
顔を真っ赤にして言い返されたそうであるが、
ラムズフェルドは、今の日本の活動にはまだ満足していないだろう。
日本の軍備については「びんの蓋」理論*3など自虐的に語られていた部分が多分にあるが
そうした屁理屈は、ラムズフェルドには、まず通用しない。
彼は、日本が東アジアのリーダーとして振る舞うことを望んでいる。
ただ、現実的に中国一国を日本だけで抑えるのは難しいので、
日米安全保障体制がどういう形になるにしろ、
アメリカも相応の"援助"はする意思はあるようだ。


そうした流れを理解していれば、この論文がアメリカで発表されたのも道理だろう。
産経ニュース

国保守主流派を代表し、ブッシュ政権にも近い政治雑誌が、日本を米国の真に信頼できる同盟国とするためにはブッシュ政権は日本が憲法を改正し、消極的平和主義を捨てて、軍事面で「普通の国」となるよう要請すべきだとする巻頭論文を掲載した。同論文は日本が軍事的により積極的となれば、中国の覇権への野望を抑え、東アジアの安定に寄与するとし、日本の核武装にも米国は反対すべきではないと述べる一方、中国には日本の首相の靖国神社参拝に反対する資格はないとも言明している。 

保守系の大手雑誌「ナショナル・レビュー」最新の七月四日号は同誌編集主幹リッチ・ロウリー氏による「日本の縛を解け」と題する巻頭論文を掲載した。

日本の危うさ


しかし、こうした日本への声は、何も日本に利益ばかりをもたらすものではない。
経済面以外でリーダーシップを発揮するということは、
それなりの血と汗を流すことが求められるのである。
国連安保理常任理事国に、アメリカから名指しで推されているからといって、
憲法9条すら、自らの手で改憲ままならぬ日本という国家と国民にその覚悟はあるのか。


また、一連の日本に対する過大ともいえる期待と好意は
小泉首相ブッシュ大統領の親密な関係や知日派ラムズフェルドがもらたしているものであり
日本への追い風を恒常的に期待することはできない。
政権や担当者が変われば、政策の大幅な変更すらありえるだろう。
現に現政策スタッフからは、日、朝鮮、韓国、台湾を非核化し
米中の共同管理を提案する論文も発表*4されているのである。


日本が計算できない利益と現状を望むなら、アメリカは計算できる損害と未来を選ばないと
誰が云えるだろうか。


右か左か、赤か青か、前か後ろか。こうした二者択一の選択は、
これからことあるごとに迫られることになる。
もし選択しないということをチョイスすれば、すなわち他国への追従と隷属を意味することになる。
もはや、選ばないことを是としたモラトリアムの時代ではない。








ブッシュの戦争二〇〇五年、ブッシュは何をやるのか―日本はどう生き残る

*1:対ゲリラ、対テロ等の正規軍ではない部隊、勢力との戦闘

*2:脱東アジアをはかりたいラムズフェルド、現状維持を望む米軍の制服組などアメリカの思惑も一枚岩でないだけに、どんな結論がでてくるか、全く予想がつかない。

*3:びんの蓋のように、日本の軍事大国化を頭から抑えるのがアメリ

*4:煮え切らない日本に対する一種の脅しで、日本の奮起自立を促す意味合いがあると解釈されている