「伸身の新月面が描く放物線は、栄光への懸け橋だ!」とアテネ五輪体操男子団体決勝を
実況したNHK刈屋富士雄アナウンサー(44)が叫んだ。
「栄光への懸け橋」がNHKのオリンピックテーマソングの曲名なのは、ご愛敬だが
「日はまた昇りました。」というフレーズはなかな気に入っている。
だが、日はまた昇ったというキャッチフレーズは水泳競技チームの方がふさわしいかも知れない。
金3個銀1個銅4個の結果は、シドニーの時の銀2個、銅2個に比べて大躍進といっていい。


戦前のロサンゼルスでは、メダルを独占し
海神ネプチューンの子孫とまで評された日本にとって戦後は長い不遇の時代でもあった。
終戦後のロンドンオリンピックで参加が許されず
(「プリンスオブウェールズを忘れない」といって
 戦争中に沈められた戦艦のことをジョンブルにぐだぐだ言われたらしい。)

オリンピックと同日組んだレースで世界新を出したものの
計測がおかしいと一顧だにされず翌年全米選手権になぐり込み
世界新をラッシュして日本人の意気を発揚した古橋広之進
(余談だが、戦後間もない頃、古橋が国体に参加する時旅費がなく、
 プールや川があって練習できるところで途中下車をしながらキセルで移動したらしい)

しかし、その古橋もオリンピックで活躍することはなく、
その後もぽつぽつと単発で世界的なスイマーが現れるものの
日本人が水泳競技でプールを賑わすシーンは殆どなく、王国復活への距離は遠かった。


今回の成果は設備や器材、トレーニング方法の充実といったハード面や
ドーピング検査の厳格化などの追い風が日本に吹いたのも事実だが
選手一人一人のメンタル的な強さもあるのではないかと思う。
競技こそ違うが、福原愛がインタビューアに4回戦進出という結果を
「楽しめましたか」と訊かれ「楽しむために、きたわけでない」という台詞は
選手に、国の代表云々以前に、「勝つ」という意志が明確にあることを示している。
以前「国とかのためでなく個人のために泳いで楽しみたい」といって
物議を醸しだした選手がいたことを思えば、選手のメンタリテイに雲泥の差を感じる。
(発言した選手が銀メダリストと家庭を営んでいるというのは一つのアイロニーだったりする)


「表彰式で君が代を聞いて、日の丸を見てたら涙がでちゃいました」という
女子800m自由で優勝した柴田亜衣の言葉は
自分の努力とともに、それをサポートしてきた人達の思いや
国民から声援を送られる日本代表という立ち位置を噛みしめたことだろう。
お国のために、と時代がかったことは言う気はないが
誰かのために戦う姿は、このうえなく美しいと思う。